卒業を前に想うこと

 本校で関わった子でいろいろな意味で忘れられない子がいる。
 誰にでもやさしく陽気な性格は,まわりのみんなを癒してくれていた。
 でも,希望する中学校へ進学できなかったので,私自身もずっと気になっていた。
 この前の春休みに本校を訪ねてきてくれた。
 女の子の友だち2人を連れて。
 3人は,小学校入学の時から仲の良かった友だちであった。
 今では,3人がそれぞれ別々の中学校へ進学している。
 その日は,昼から教官会があり,ゆっくりと話す時間がとれなかったのだが,学校前のジョリーパスタで一緒に食事をしながら話した。
 「どう?中学校は楽しいか。落ち込んでいないか?」
 と聞くと,
 「先生。ぼく,今,とっても楽しいよ。○○中学校へ行って本当によかったと思っている。本当だよ。」
 「そうか・・・。」
 パスタを食べながら,以前とは変わらぬ明るさに涙が出そうになるぐらいうれしかった。
 自分なりに一つの壁を乗り越えられたのだろう。
 立派なものである。
 子育ては本当にむずかしい。
 「幼少の者は,頭が良いからといって,それをほめてばかりいて,何も手を加えずに,立ち木のように育てると,大人になったころには,わがまま者になり,あとは,親の言うことも聞かないものである。」
 これは,徳川家康が,息子の二代将軍秀忠の正妻おごうの方にあてて書いた手紙の一節である。
 おごうの方は,同じ実子でありながら当時8歳の竹千代(のちの三代将軍家光)の方は嫌い,6歳の国千代を溺愛していた。
 家康がその育児法を心配して諭したのがこの手紙の一節である。
 家康は,この時70歳。
 毅然とした態度の中に深い愛情がくみとれるとして評価されている手紙である。
 家康の心配は的中し,わがままで粗暴に育った国千代は,28歳のときに切腹させられている。
 これから,子どもたちは,数々の試練が待ち受けていることだろう。
 でも自分の力で乗り越えていかなければならない。
 しっかりと自分を見つめ,可能性を信じて前向きにがんばるしかない。
 ただそれだけである。

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