嬉野関係](大学院社会系コース同窓会誌)                


 知的生活をするために

32期生のみなさん,修了おめでとうございます。
今後ますますのご活躍を期待しています。
教育・言語・社会棟は,3月末まで,大型改修工事が続いている。
今年度の修了生は,最後の半年間,ゆとりをもって気分的に過ごせなかったのではないかと思うが,これも何かの巡り合わせである。

自分の学生時代を振り返ってみても,居住環境はずっと運がない。
小学校の時も中学校,高校,大学とすべての段階で,自分が卒業した後で,きれいな環境になっている。
そんな年回りの年代だろうと思うと情けない。
小学校や中学校,高校なんて,「ボットン便所」が当たり前。すべて卒業した頃に水洗便所に完全移行する。
当然,校舎は木造で,中学校は,建て替えのためにプレハブ校舎で過ごす。
プレハブ校舎の夏の暑さは最悪であった。
高校は,さすがに鉄筋校舎であったが,当然,すべての校舎ではない。
入学した時の教室は,昭和初期の雰囲気が残る校舎の中にあり,古いイメージが強烈に残っている。
現在では,体育館を含めて,すべて建て替えられている。
大学も同様で,古びた教室でずっと授業を受けていた。
そんな中,学食だけが新しくなり,それだけでうれしかった記憶がある。
今は,すべて新しくなっているので,授業料に見合う環境になかったことに今でも腹が立つ。
この状況は,教員として勤めてからも同じである。
初めて勤めた学校は,少し古びた感じが見え始めていたが,創立10年目の新設校だったので,まだ良かったが,次に勤めた学校は,四国山地の山奥の学校。
まさに今西祐行作品の「太郎こおろぎ」に出てくる世界で,ど田舎にある木造校舎で,階段は,歩くと今にも壊れそうな軋む音がして,確実に右に傾いている。
ただ,その校舎は,まわりの風景に溶け込んで,違和感はなくそれなりに雰囲気を楽しんでいた。
次に勤めた広島の学校は,昭和40年頃に建てられた校舎のままで,何の特徴もない,古びただけの校舎であった。
毎年,大学から改修工事の計画話だけが出てきて,その対応のために,意味のない要望書や計画書だけを書かされていた。
結局,自分が勤めている間には改修工事は実現せず,転勤した後,大型改修工事をして,現在は,見る影もない程立派に全面リニューアルされている有様。
今思うと,うるさい工事を経験しなかっただけでもいいかと思っている。
そして,本学は,今年,やっと改修工事に着手。定年まで,あと11年。
少しはいい環境で過ごせる時間ができるかも知れない。
本学に赴任してあっという間に7年が終わる。
年々,本やファイルなど確実に増えていく。
捨てられない教材・教具もたくさんある。
収納スペースが限られている中で,快適に過ごすためには創意工夫が必要である。
居住スペースは,住んでいる官舎を含めてあまりいい環境ではないが,日々目指しているのは,気持ちの問題であり,知的生活そのものである。
自分の思考状態は,落ち着いた感じで過ごせている。
前期は,教育課程と社会科中心の脳で動き,後期は,生活科中心の脳で動いている。
これが実にけじめがついて,いいルーティンになっている。
2年前,京都での非常勤の仕事を引き受けてから,1年中,社会科と生活科が共存している感じにはなっているが,どのような状況であれ,社会科中心の生活であることには変わりない。
何を見ても,何を聞いても,社会科に関連づけて思考する。
人生経験も様々な体験もすべてが社会科に結びつく。
いろんなものが線でつながると,考えるのも実に楽しい。
これまで多くの「点」が雑然と存在していたものが,最近,すべてが「線」でつながっている感覚を実感できている。
まだ,なかなか自分の中で納得できる形や,新たなめあては見つかってはいないが,しっかりとテーマ,分野,領域ごとに,考えをまとめる作業を継続している。
何につなげたいのか自分の中ではまだ定かではないが,あれこれと考えていることが楽しい。
やはり,知的生活をすることが一番の楽しさである。
ふと思う。
自分の人生をかけられるものができてしあわせである。
お金にはならないけれど,他のものが目に入らないほど,集中できるものができている。
何歳になってもこれは変わらない。
脳は,歳をとっても,思考を司る部位は,成長を続けることができる。
運動や感覚,言語などはさすがに若い方がいいようだが,思考だけは違う。
歳をとればとるほど,思考は深まるものである。
すぐに惚けないためにも,普通に知的生活をしていることが重要である。
今年87歳になる母親は,今でも惚けないで,一人で立派に暮らしている。
誰にも介護されずに,自分で何でもこなしている。
ずっと自然に脳を使って変わらぬ生活ができているのだろうと思われる。
そのことをずっと尊敬している。
脳を鍛えるための知的生活。
まだまだ先は長い。
来年4月からはリニューアルされた環境で,それに適応した新たな思考を創造していきたいと心新たにしている。


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