ランドマークを見つけよう。  ランドマークを見つけよう   最愛の娘「あきら」です。  戻る



    淡々と進む葬儀の相談





 夜8時を過ぎて,セルモ玉泉院の葬儀担当の人が訪ねてきてくれました。
 「今回は,どうも・・・・。」
 と言って,子どもの姿を見て,
 「お子さんなんですか・・・・。私も同じ年頃の娘がいるんで・・・・。」
 「4歳でした。葬儀のことは,何も分からないことだらけなので,よろしくお願いします。」
 「分かりました。通夜と葬儀は,いつになされますか。29日が友引なので,葬儀は,29日をさけられますか?」
 「そうですね。できればさけたいと思っています。
  31日は,大切な仕事があるので,30日に葬儀ができたらと思うのですが・・・・・・。」
 こんな時まで研究会のことを考えている自分と,あきらに100%集中できなかったことに情けなくもなりました。


 「そうですね。今日が27日ですから,28日が身内だけの仮通夜。29日が通夜。30日が葬儀がいいと思います。」
 「あきらは,ずっとこのままでいるのですか?」
 「そうです。でも,ドライアイスで冷やしておきますから。
  お子さんなんでだいじょうぶだと思いますよ。
  この後,仮の仏壇とドライアイスを持ってきますので・・・・。」
 あきらは,当然のことですが,病院で見た「にこっ」とした表情で永遠の眠りについています。
 でも,「死んでいる」という現実感はありませんでした。
 「なんでや。」と思う気持ちが頭の中をぐるぐる回っていました。


 「葬儀のことについてですが。言いにくいことですが,葬儀には,いろいろとランクがありま して・・・・。」
 と言ってパンフレットを提示しました。
 そこには,3つのコースが準備されていました。
 葬儀にどのくらいの費用がいるのか,どんな準備をすればいいのか,まったく予備知識がありませんでした。
 喪主を務めるなんて二男の私には,想像もつきませんでした。
 親の葬式もあげてないのに,自分の娘の,しかもかわいいあきらの・・・・。


 分からぬままにパンフレットをめくっていると,
 「關さんは,何宗ですかね。」
 「真言宗です。私自身は,無宗教なんですが,家が真言宗なもので。真言宗でお願いします。」
 「広島では,真言宗は少ないんですよ。浄土真宗が多いんですよ。」
 「そうですか。」
 広島のことなんてまったく知らなかったことにまた気づきました。


 「真言宗だとこのお寺のご住職がいいと思います。とてもいい方ですから安心してください。」
 「そうですか。お任せしますのでよろしくお願いします。」
 と答えました。
 そして,再び葬儀のコースについての話題になりました。
 「このコースが適当かと思います。」
 武内副校長先生は,娘さんの葬儀を機会にセルモ玉泉院の会員になられているようで,葬儀のこともよく分かっているようでした。
 「このコースでいくとどのくらいの金額になりますか?」
 「まあ,ちゃんと計算してみないといけませんが,100万円ぐらいだと考えておいてください。」


 100万円と言われても200万円と言われても,相場が分からない我々には,まったくぴんときませんでした。
 「これ以外にもお坊さんに払うお金が必要になります。」
 と言って,紙に書いてくれました。
 枕経,お布施,お車料,埋葬料,マイクロバス代,寸志などなど合計すれば何10万にもなりました。
 「これに,戒名料もいります。仏壇,位牌もそろえてあげないと・・・・。」
 これは,たいへんなことが始まる予感がしました。悲しみにふせいでいる場合ではありませんでした。


 「それから,あきらちゃんの写真を10枚程準備してくれませんか。
  ビデオにして流したいと思いますので。もちろん,遺影にする写真も1枚考えておいてください。
  それから,お礼の葉書の字のことですが,關という字は,旧字体でいきますか?それとも新字体でいいですか?」
 「新字体でいいです。関の方が慣れていますから。」
 と,次々と準備することや考えなければいけないことがありました。


 しばらくすると,同僚の徳永先生がご夫婦で訪ねてきてくれました。
 ふだんから尊敬している徳永先生の顔を見ると,また涙が出てきました。
 研究会を直前に控えていろんな人に迷惑をかけている自分が情けなくなりました。
 徳永先生は,教務部長なので,通夜や葬儀のときの教官の動きや保護者への連絡などの調整をすべてしてくれました。
 「保護者には,明日,文書を出します。
  28日は,身内だけの仮通夜なので官舎の方へは,いっさい訪ねないようにしておきます。
  29日に通夜,30日に葬儀をセルモ玉泉院で行うのですね。通夜は,午後7時から,葬儀は?」
 「葬儀は,午前10時からです。10時だと午前中で終わるので参会してくれる人にもいいと思いますので。」
 「なるべくみんなに迷惑をかけない時間帯にしてください。よろしくお願いします。」
 「先生,研究会はどうするの。生活科は,カットしようね。」
 と,徳永先生。
 「いや。やらせてください。自分も今まで子どもたちといっしょにいろいろ取り組んできたつもりだし,子どもたちも楽しみにしているので,全国の人にそれを見てもらいたいんです。
  29日は,通夜が午後からなので,午前中の授業だけに学校へ行きますから。」
 「29日に学校へ。それはいかんよ・・・・。でも,そうか。先生の思うようにやるといいよ。」
 徳永先生は,すべて分かっている表情で答えてくれました。


 葬儀の担当の人が二人,仏壇と,とてもきれいな2つの灯籠と,ドライアイスを持って下から上がってきました。
 「ドライアイスをふとんの中に入れておきます。仏壇は,ここでいいですか?」
 セルモ玉泉院の方は,てきぱきとやってくれました。
 台の上に白布をしいて,仏壇を置き,線香を立てると,
 「本当にあきらは,亡くなってしまったんだ。」という現実がおそってきたようでした。



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