ランドマークを見つけよう。  ランドマークを見つけよう   最愛の娘「あきら」です。  戻る




    「ランドマーク」って何?





 研究授業は,午前10時から45分間です。
 授業教室へ移動するために子どもたちを連れて階段を降りていきました。
 参観者が多いので,授業教室まで入るのがたいへんです。
 廊下を通ることができないので,運動場側のベランダを通っていくことにしました。
 人混みをかき分けて中へ入っていきました。


 子どもたちを取り巻く先生方の中でも子どもたちは,いつものように元気な笑顔でした。
 授業のテーマは,「ランドマークを見つけよう」ということでした。


 ランドマ−クというのは,「町」をイメージしていくための要素の一つです。
 認知地図の形成において,パス(道路)・エッジ(縁)・ディストリクト(地域)・ノード(接合点)・ランドマーク(目印)という要素でとらえ,町を自分の目で見ていく活動をしていました。
 あきらが入院している間も子どもたちは,町を自分たちで探検してノートに書いて報告してくれていました。
 また,見えるものだけでなく「町の音」をランドマークにして考えるために,自分の町のランドマークになる音を録音する活動もしていました。
 あきらが亡くなってから授業だけをしに学校へ行った29日にもたくさんの音が集まっていました。
 でも,通夜や葬儀のために,その音を聞いてあげる時間がとれませんでした。
 子どもたちの活動に対するサポートができなかったのがとても残念でもあり,悔しい思いがありました。


 いよいよ授業が始まりました。
 「みんな今朝は,寒かったでしょう。冬になって町の中で変わってきたことがありますか?」
 と投げかけました。
 子どもたちは,
 「雪がたくさん降るようになったよ。」
 「みんなの息が白く見えるようになったよ。」
 「ガソリンスタンドで灯油を売っている。」
 「大売り出しのチラシが多くなったよ。」
 など様々な気づきが出てきました。
 「そうだね。それでは,町の中にあるものの仲間分けをしてみましょう。」
 と,カードを出して,黒板で仲間分けが始まります。
 仲間分けの作業は,子どもたちは,大好きです。
 子どもたちの視点で,自由に仲間分けして,仲間分けした基準を自分の言葉で発表してもらうのです。
 「楽しいところ」とか「便利なところ」「学校の近くにあるもの」「平和なもの」など自由に分類をしていきます。
 そして,広島という地域全体で建物や施設を配置していきました。
 2年生の段階で町全体を見ていくのは,なかなか高度なことですが,子どもたちは,毎日電車・バス通学をしているので,かなり視野も広がっています。


 小学校の低学年では,平成4年度より「生活科」という新しい教科が登場してきました。
 当初は,Jリーグのブームと同様に日本全国で先生方の盛り上がりは,たいへんなものでした。
 今までの教科の枠を超えたとか,子ども中心のとか,教えるのではなく学ぶためのなどなど新しい教育課程の目玉とも言える教科として,「生活科」は,登場してきたのです。
 しかし,子どもが自由に遊んでいるだけで,教師のかかわりやあり方が問題になってきました。
 旧態依然とした受験戦争が,激化する中での解決策にはなっていなかったのです。
 つまり,子どもたちが,もっと自由な発想で考えることや,目的をもって活動できる場を保障しきれていない状況が生まれているのだと自分なりにとらえていました。


 「みんなが町の音集めをしてくれたけど,先生の集めた音も聞いてみてください。」
 と,広島を象徴するような音を聞いてもらいました。
 お好み焼きを焼いている音,市民球場の盛り上がる応援の音,広島の夏祭りを象徴するとうかさんの音など子どもたちにとっては,「音クイズ」のようで楽しく取り組んでくれました。
 ランドマークというのは,目印なのですが,子どもにとっては,町の見える目印から,見えない音の目印など拡大して考えてくれるようになりました。
 活発な意見によって,子どもたちの中でのキャッチボールはうまくできませんでしたが,何とか授業は,終わりました。


 子どもたちは,授業が受けれたこと,全国の先生方に見てもらったことで満足しているようでした。
 次は,体育の授業があるので喜んで体操服を着替えに特別教室3へ急いで移動していました。

    資料   「町」をイメージする要素。

1 パス(道路)・・・・・・・・・・・人が通ることのできる道筋のこと。
                  道路,橋,鉄道,航路など
2 エッジ(縁)・・・・・・・・・・・・人がその線を越えて移動しないもの。
                  海岸線,湖岸,崖,壁など
3 ディストリクト(地域)・・・・何か共通の特徴がある比較的大きな領域。
                  市の中心部,中華街など
4 ノード(接合点)・・・・・・・・・パスが交差する場所を指すもの。
                  道路の交差点,駅,空港,広場など
5 ランドマーク(目印)・・・・・・認知地図の中で目印になるもの。
                   目立つ建物,塔,看板,公園など
                        (Lynch,1960 認知地図の形成過程より)    
 

  1・2年生という発達段階を考慮した場合,空間概念の発達においては,ユークリッド的関係(距離,大きさ,角度,平行などの概念の獲得)を理解するのは,困難であると考え(Piaget,J 1960.参照),町を見ていくための基準となるのは,目印となるランドマークを適切に位置づけていくことが,大切であると考えていました。子どもにとって,パス,エッジ,ディストリクト,ノードをすべて子どもにとっては,ランドマーク(目印)として考えて取り組んできたのです。


戻る