ランドマークを見つけよう。  ランドマークを見つけよう   最愛の娘「あきら」です。  戻る



    つらい中での仕事


 そして,ついに,運命の27日を迎えました。
 月曜日なので学校が心配です。一度学校へ行くことにしました。
 もし容態に変化があればすぐに電話をするように頼みました。
 容態は,安定をしていました。
  しかし,心電図の波は少しずつ異常を示していましたが・・・。


 一度学校へ行ってクラスの子どもたちの様子を確認し,担当の授業を1時間でもしようと思っていました。
 31日には,私の勤めている学校の年に1度の全国大会の研究会があります。
 この研究会は,歴史も古く毎年,約2,000人ほどの参加者があります。
 東の筑波大附属小,西の広島大学附属小と位置づけられて明確な意識をもって研究に取り組んできています。
 その研究会では,各教科ごとに教官が,研究授業と研究協議会を開催しなければいけませんでした。


 学校へ行くと,
 「どうしたの?いいの?子どもについてあげておかないと・・・・。」
 と研究会前の忙しいと思われる中,何人もの教官が心配をしてくれていました。
 「分かってます。でも,できる限り普段通りの生活をしたいんです。」
 と返答していました。
 冷たい親だと思われていたかも知れません。
 もちろん,何もなければあきらにずっとついてあげたい。
 手を握りたい,顔もふいてあげたい。
 でも,・・・・そんな思いがいろいろと交錯していました。

 後で聞いた話ですが,洸太朗と涼太朗も,ばあちゃんに,27日の月曜日の朝も,
 「ぼくたちは,学校へ行く。いつもと変わりなくせんと,あきらがもうだめみたいに感じるから・・・・。」
 それを聞いた私の母親も何も言えず,
 「洸太朗も涼太朗も元気でがんばらんとね。あきらも病気と必死でたたかっているんだからね。」
 と言って,朝送り出したそうです。


 月曜日の朝は,全校朝会があります。
 いつものようにクラスごとに子どもたちが整列して,私は,子どもの後ろに呆然として立っていました。
 隣のクラスの教官である本家先生が,静かに近づいてきて,小声で,
 「先生,子どもさんは,だいじょうぶなんですか。」
 と聞きました。
 「もうだめかも知れない。」
 と言うと,涙がとまりませんでした。
 前では,大槻校長先生が,
 「今,全国でインフルエンザが猛威をふるっています。みなさん,手洗いやうがいをしていますか・・・・。」
 と,風邪の予防に対する講話をしていました。
 私は,涙がこぼれないように,空を見上げながら,
 「たまらんよなぁ。インフルエンザで死ぬか?」
 「ここにいないで早く病院へ行ってあげたらいいですよ。ぼくがクラスを見てますから・・・・。」
 「でもな,少しでも研究会のための準備もしないとなぁ・・・・。」
 「それは,そうですけど。」
 「つらいよ。本当に。何のために人は,生きてるんかなぁ。何で仕事をするんかなぁ。」
 「・・・・・・。」
 「でも正直,自分でもどうしていいのか分からんのよ。なんでここにいるのかなんて自問自答してるんよ。」
 「・・・・・・・。つらいですね。・・・・。」


 全校朝会では,校長先生の講話が終わり,集会委員会担当のゲームをしていました。
 いつもは,短く感じる20分の朝会ですが,すごく長い時間に思えました。
 1時間目は,学級活動の時間でした。
 子どもたちの生活の中で,問題はないかを考える時間でもあります。
 子どもたちの顔を見ると,あきらの顔に見えて,涙がとまりませんでした。
 「先生の子どもが・・・・。死にそうなんだ。」
 2年生の子どもには,意味が分からず笑っている子もいました。
 いつもは,おかしいことばかり言う先生が,泣くまねをしているのだ思ったのかも知れません。
 でも,本当に涙を流しているのを見て,クラス全体が,シーンと静まりかえりました。
 「こんなことをしていたら,この子たちまで暗くなってしまう。」と,気を取り直して,
 「今日は,これからみんなの好きなゲームをします!」
 「えー。ヤッター。」
 と,子どもたちは,大騒ぎでした。
 みんなの希望を聞いてみます。
 教室内でのマジカルゲームや,ドッジボール,キックベースボールなど子どもたちは,輝く笑顔で自分でやりたいゲームを主張します。
 みんなの意見を集計した結果,キックベースボールをすることになりました。
 ゲーム内容が決まると,次は,チーム決めをします。
 子どもたちは,自分たちでしっかりとチーム決めをしていよいよキックベースボールをすることになりました。
 体育倉庫からベ−スやサッカーボールを調達して楽しくキックベースボールができました。
 私は,それを横で見ながら,ほのぼのとした気分になれました。
 でも,楽しそうな子どもの笑顔が余計に自分を悲しくさせていることにも気づきました。


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