五十﨑朗先生，突然の先生の訃報にここに参会されている方はもちろん，多くの方が本当に驚き，深い悲しみでいっぱいだと思います。
本日ここに先生のご霊前にお別れのご挨拶を申し上げなければなりません。人生のはかなさを感ずるにあまりある悲しみであります。
私は，１５年前に自分の父親を亡くしてから，先生を本当の自分の父親のように勝手に思っていました。
先生との出会いは，今からもう３２年前です。
先生は，五十﨑古郷，石田波郷の師弟関係のある俳人であられるとともに，当時，愛媛の算数教育の第一人者であられました。
愛媛県の新規採用教員として，松山市立たちばな小学校に赴任して出会うことができました。
先生には，本当に心から感謝をしています。
五十﨑朗先生のたちばな小学校での学校経営は，今でもはっきりと強く印象に残っています。
私は，愛媛県や広島県，兵庫県で勤めてきました。
今，大学教員になってからも，兵庫県下をはじめ，京都府や奈良県，和歌山県，福井県など。
毎年，数え切れないほど多くの小・中学校を訪問しています。
しかし，五十﨑先生ほどの学校経営をされている学校には滅多に出会えることはありません。
愛媛の教育の凄さ，いや五十﨑朗校長先生流の学校経営のすばらしさ，そこで勤められたことの誇りを今でもずっともち続けています。
私は，新規採用教員で採用された時，当初は松山市立余土小学校に辞令をもらって赴任していました。
しかし，余土小学校の児童数減に伴い，４月５日に突然，たちばな小学校に異動になりました。
その時は，正直ショックでした。
でも，今から思うとそのまま余土小学校のままでいたら，五十﨑先生に出会えずにいたと思うと，今でもゾッとしてしまいます。
人生が変わった瞬間だったかも知れません。
当時のたちばな小学校は，全校児童１，４００名を超える大規模校で，創立１０周年を迎える新設校でした。
しかし，当時から松山市を代表する小学校だったと思います。
そこで，五十﨑先生は，見事な学校経営をされていました。
栗原教頭先生，和田教頭先生をはじめ，葛原先生や三木先生，山内先生，冨永先生，矢野先生，髙魚先生など。
多くの力量のある先生方，また，若い世代にも山中先生をはじめ，升岡先生，牟田先生など若い先生方がたくさんいました。
たちばな小学校は，ほんとに活気に満ちた雰囲気がありました。
五十﨑先生が作られた校歌や校訓もはっきり覚えています。
たちばな小学校の校歌には，最後にすべて「ともに」という言葉が入っています。
励もうともに，歌おうともに，築こうともに････。
これは，子どもとともに伸びる教師，子どもとともに成長する教師，そのものだと思っています。
そして，校訓は，「学ぼう 遊ぼう 伸びよう ともに」でした。
すばらしい校訓であるとともに，人生訓になるようなすばらしい校訓だと思っています。
私は，今，学校を訪問するたびに各学校で紹介をしています。
もし，私が松山にいれば，五十﨑先生と関わりがあった先生方とまた一緒に飲み明かしたいといつも思っていました。
でも，先生もおられず，みんないい歳になり過ぎて，今では叶わぬ夢になりました。
また，たちばな小学校でのマイクを使っての職員朝礼や終礼もなつかしいです。
職員室も広くて，たくさんの教員がいました。
そんなたちばな小学校で，私は，教員になり立ての頃は，お世辞にも先生らしさのかけらもありませんでした。
そのため，先生には，仲人をしていただいたご縁だけでなく，毎年，お正月には新年会に呼んでいただき，お宅を訪問させていただきました。
ほんとに公私共にお世話になったと感謝しています。
また，奥様の和子様は，私の親友を番町小学校で教えていただいたことも何かのご縁を感じたものです。
そして，何より教師としての心構えをたたき込まれたような感覚でいます。
感謝しても感謝しきれません。
若い頃の私は，これと言った目標もない教師でした。
平気で学校にジャージで行って，校内では当然のようにスリッパを履いて過ごすようなけじめのない教員でした。
ある日，先生に校長室に呼ばれました。
その時のことは，今でもはっきりと覚えています。
「君は，まず，身だしなみをしっかりしなさい。
君のような若い者，いい加減に見える者ほどしっかりと身だしなみをしなさい。
授業をする時は，ネクタイをしなさい。
体育の時は，その都度，ジャージに着替える。
そのけじめが大事なんだよ。
何より自分で教師としての構えを常にもとうと気をつけることから始めなさい。
そして，自分に目標をもって生きるようにしなさい。
すると，何もかも変わってくるはずだ。」
そんなことを言われました。
私は，先生の言葉は素直に耳に入ってきたように思えます。
日頃から尊敬できる存在だったからだと思います。
その時から，自分は，心を入れ替え，目標を持って生きることができたような気がしています。
だからこそ，今でもずっと先生を自分の父親のような存在に感じて生きています。
尊敬できる先生の名前である「朗」という漢字を，長男と二男には勝手にいただきました。
亡くなった長女にも「朗」の漢字を「あきら」と読んで，「玲」という字で「あきら」と命名しました。
玲は，４歳であまりにも早く逝ってしまいましたが。
長男の洸太朗は，今年３０歳になります。
今年３月に，広島で結婚式をあげる予定です。
先生にもその姿を見てほしかったです。
私は今でも，先生は，たちばな小学校の職員室の前方で，こちらを見て，堂々と威厳のある姿で，ゆったりと座っておられるイメージのままです。
私は，今，５６歳になりましたが，先生が，たちばな小学校で校長先生として勤められていた時の年齢よりも歳をとっていると思います。
先生に比べてなんと威厳というか，ゆとりがないことか。
情けない思いでいます。
しかし，五十﨑先生が算数科教育や「俳句」をライフワークにされたように，私も同じように生きていきます。
私は，自分の好きな社会科教育をライフワークにして，大学で将来学校現場で小学校の教師を目指す学生を育てる仕事に関わっています。
最近，やっと自分で納得のできる研究会での講演や大学での講義もできるようになってきました。
でも，まだまだ自分に伸びしろがあると思って日々努力を続けていくつもりです。
「学ぼう 遊ぼう 伸びよう ともに」をモットーに。
昨年あたりからずっと先生のお体の具合が気になっていました。
そして，大晦日に奥様からの突然の訃報に接しました。
私は，人生で初めて読む弔辞が，五十﨑朗先生へのものとは夢想だにしませんでした。
先生の数多くの教え子の一人として，先生の教えを守っていきます。
終生先生が掲げられた信念と生き方を必ずや受け継ぎ，更なる発展へ邁進する覚悟でおります。
先生は，これからずっとみなさんの心の中で生き続けていかれるはずです。
あまりにも突然のことであり，ご遺族の方々の悲しみは，いかばかりかとお察し申しあげています。
心より哀惜の意を表するものであります。
先生のこれまでの数え切れないほどの偉業に対し，心から尊敬と感謝を捧げます。
先生が安らかに眠られることを衷心よりお祈りいたして，私のお別れの言葉といたします。
故・五十﨑朗先生
平成２７年１月３日
元たちばな小学校教諭
兵庫教育大学大学院教授
關 浩和
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