かき(牡蠣)のエピソ−ド

　広島のカキは，約４５０年前から養殖されていたといわています。広島県の代表的な水産物になっています。現在，生産量では，全国シェアの約５割を占め，全国に圧倒的なファンを獲得しています。そのような経緯から，かきは，広島県のさかなとして制定されました。（平成２年(１９９０)９月６日制定） 広島湾一帯では，縄文・弥生時代から，住民が天然のカキを食べていたことが，貝塚から出土するカキ殻から分かっています。養殖への移行は明らかではありませんが，天文年間(１５３２年〜１５５４年)に，安芸国でわが国最初の養殖法を考案したとする説(小林五郎左衛門)や，寛永年間(１６２４〜１６４３)に仁保村渕崎（現南区仁保）吉和屋平次郎が石蒔養殖からひび建養殖法を開発したとする説などがあります。同じ頃，矢野（現安芸区矢野）や草津（現西区草津）にもひび建養殖法開発の伝説があり，各浦で技術開発を競っていたことが伝えられています。ひび建養殖法は，満潮線と干潮線の間に限られていましたが，大正１５年(１９２６)に垂下養殖法が開発されて，沖合養殖が始まり，昭和になると次第に主流となりました。戦後，戦時制限されていた沖合い利用が可能になると，垂下式も杭打式から筏式へ移り，養殖場も広島湾から周辺海域へと拡大していきました。また，近世中期にはカキ船が，大阪の川へ現れるなど販路の拡張にも努めています。こうした時代を経て，２００８年は，むき身で約１７，０００トンと，全国の約５割が生産されており，広島は，全国有数の産地として栄えるようになりました。カキ料理には，酢ガキ，土手鍋，カキの殻焼き，カキフライなどがあり，いずれも冬の広島を代表する味覚となっています。

《広島かきのシンボルマ−ク》

　連続する波紋は，「かき」の豊かな成長と，それを育む瀬戸内海の波を表現し，右上がりの構図で，水産業の２１世紀への発展を力強く表現しています。

　かきは，プランクトンを食べるために大量の水を飲み込みます。実に，１時間に１０リットル(家庭用ポリバケツ１杯分に相当します)も飲み込みます。広島湾の筏を６，０００台とし，１筏に２４万個のかきがくっついているとすると，１日の飲む水の量は，３〜４億トンにもなります。これは，だいたい５〜６日で広島湾の水を飲み込むことになる量です。

　日本では，かきは冬の代表的な味覚として親しまれていますが，外国でもスペルにＲのつく９〜４月にかきを食用とする習慣があります。(SEPTEMBER・OCTOBER・NOVEMBER・DECEMBER・JANUARY・FEBRUARY・MARCH・APRIL：２月は，Ｒが２つつきます。それだけ，かきは，冬が旬だと言えるのかな。)５月〜８月(MAY・JUNE・JULY・AUGUST：Ｒはつきませんね。)にかきを食べないのは，この時期が，かきの産卵期にあたり味が落ちることと暑さで腐敗しやすいことなどからきています。

　バイオテクノロジ−によるかきの３倍体誘発の実験が注目されています。生物の染色体は，相同のものが１対ずつあって，２ｎで表します。３倍体とは，受精卵を温度・圧力などを加え処理することにより，３ｎの受精卵が得られ，順調に生育して３ｎの個体になったものをいいます。この３倍体は，不妊化するため，本来ならば，放卵，放精を行うはずの夏でも，品質が劣らず身入りの良いものがとれます。この３倍体であれば，Ｒがつかない月でもおいしいかきを収穫することは夢ではない，ということです。

　シ−ザ−は，かきを好物とし，ビスマルクは，一度に１７５個のかきを食べたと言われています。また，ナポレオンは，戦場でもかきを食べたといわれます。アメリカ合衆国大統領リンカ−ンもかき好きで，オイスタ−・パティ−をたびたび開いたとされています。日本でも頼山陽が，「天上天下牡蠣独尊」と讃えています。また，戦国時代の武将武田信玄もかき好きで有名です。