かき(牡蠣)の一生

　かきについては，『大和本草』(１６２９年)に，次のような記述があります。「石につきて生じ−処にあり動かず，故に牝牡(ひんぼ)の道なし，子をうまず，皆牡なり」・・・・・牡蠣という字もそこからきたと考えられています。かきは，１個体に卵と精子をもつ傾向が強く，年によって雌雄が変わったりすることもあります。それでは，筏式養殖法に見るかきの一生を紹介します。筏式養殖法には，１年生養殖法と２年生養殖法がありますが，現在では，２年生養殖法が行われています。

　かきの産卵は，７〜８月に行われます。一度の産卵で，５，０００万もの卵が放出されます。これが，水の流れにのって，白い煙のように水中に出された精子と出会い，受精します。幼生は，約２週間，海の中を漂いながら過ごし，付着するところを探します。この頃に採苗器(主にホタテ貝の貝殻)を筏につり下げ，かきの幼生を付着させます。これが採苗です。こうして固着すると，その後，一生そこを離れることはありません。つまり，かきは，幼生期のごく短い期間だけしか動かないということになります。

　抑制というのは，海水につかる時間を少なくして，かきを大きくせず，抵抗力を与えることを言います。採苗連のまま抑制棚にかけ，潮が満ちたときは，海水につかり，干潮時には太陽にさらされるので，かきは鍛えられるというわけです。この段階は，環境の変化に強い抵抗力をつけるのが目的です。

　採苗連から種かきのついた付着器をはずし，新しい針金に通し替え，また，かきの成長に備え，付着器の間にはさむビニ−ル管もより長いものに替えます。こうしてできた垂下連を筏につり下げて，育成します。筏１台の大きさは，１０×２０ｍが標準です。これに，垂下連６００本(貝殻２４，０００枚)をつるします。通常，５台を１組として連結します。夏の高水温をさけ，また，表・中層に多い点ムラサキイガイなどの有害生物の付着を避けるために，一定の期間は，５〜１０ｍのつり線をつるして深つりします。かきが死なないように，そして，身が良く入るようにしています。

垂下連

　垂下連の長さは，９ｍもあるため，かきも大きくなって重いので，船に約１０ｍの柱を立て，ウインチを用いて，１０本前後の垂下連をクレ−ンでまとめて引き上げます。付着器１枚に１０個ほどのかきが育っています。収穫されたかきは，打ち子さんの手によってむき身にされて出荷されます。