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民本主義　民本主義

　大正デモクラシ－の運動の発端となったのは，尾崎行雄らの第一次護憲運動であるが，それに理論的中身を与えたのは，吉野作造の民本主義である。吉野は，１９１６(大正５)年，自らの論文を雑誌『中央公論』に発表した。その中で，吉野は，デモクラシ－の語義を帝国憲法下では，主権在民の観念を内包する民主主義の語句として意図的にさけ，民主向上と民意尊重(民本主義)に重点をおき，これは普通選挙と政党内閣制によって実現することを唱導した。天皇主権を棚上げにして，政治運用面で民主化をはかることという彼の考えは，天皇大権と天皇親政を楯にして民意を無視する官僚独裁の打破をねらったものであった。

■　民本主義

　民本主義といふ文字は，日本語としては極めて新らしい用例である。従来は民本主義といふ語を以て普通に唱へられて居つたやうだ。時としては又民衆主義とか，平民主義とか呼ばれたこともある。然し民主主義といへば，社会民主党などといふ場合に於けるが如く，「国家の主権は人民にあり」といふ学説と混同され易い。又平民主義といへば，平民と貴族とを対立せしめ，貴族を敵にして平民に味方するの意味に誤解せらるるの恐れがある。独り民衆主義の文字丈けは，以上の如き欠点はないけれども，民衆を「重んずる」といふ意味があらはれない嫌がある。我々が視て以て憲政の根抵と為すところのものは，政治上一般民衆を重んじ，其間に貴賤上下の別を立てず，而かも国体の君主制たると共和制たるとを問はず，普く通用する所の主義たるが故に，民本主義といふ比較的新らしい用語が一番適当であるかと思ふ。

〔中央公論〕

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